孔子『論語』「道徳斉礼」(為政)と「長沮・桀溺」(微子)の現代語訳と書き下し文

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古典ノート

 

 孔子の『論語』から「道徳斉礼」と「長沮・桀溺」の解説をしていきたいと思います。漢文を学んでいく上で『論語』は外せない教材です・論語をしっかりと学んでおくことで、その知識も含めて入試に役立ってくれます。

 授業の予習や復習、大学入試の基礎を学びたいという人におすすめです。この2つのお話は、他の作品にも影響を与えています。孔子の思想と孔子を批判する2人の考え方をぜひ読み取っておきましょう。

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本文解説(書き下し文と現代語訳)

 

 

 

 

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白文

道徳斉礼 

子曰、「道之以政、斉之以刑、民免而無恥。道之以徳、斉之以礼、有恥且格。」(『論語』為政)

長沮・桀溺

 長沮・桀溺、耦而耕。孔子過之、使子路問津焉。長沮曰、「夫執輿者為誰。」子路曰、「為孔丘。」曰、「是魯孔丘与。」曰、「是也。」曰、「是知津矣。」問於桀溺。桀溺曰、「子為誰。」曰、「為仲由。」曰、「是魯孔丘之徒与。」対曰、「然。」曰、「滔滔者、天下皆是也。而誰以易之。且而与其従辟人之士也、豈若従辟世之士哉。」耰而不輟。子路行以告。夫子憮然曰、「鳥獣不可与同群。吾非斯人之徒与而誰与。天下有道、丘不与易也。」(『論語』微子)

 

書き下し文

道徳斉礼

 子曰はく、「之を道くに政を以てし、之を斉ふるに刑を以てすれば、民免れて恥づる無し。之を道くに徳を以てし、之を斉ふるに礼を以てすれば、恥づる有りて且つ格る。」と。

長沮・桀溺

 長沮・桀溺、耦して耕す。孔子之を過ぎ、子路をして津を問はしむ。長沮曰はく、「夫の輿を執る者は誰と為す。」と。子路曰はく、「孔丘と為す。」と。曰はく、「是れ魯の孔丘か。」と。曰はく、「是れなり。」と。曰はく、「是れなれば津を知らん。」と。
 桀溺に問ふ。桀溺曰はく、「子は誰と為す。」と。曰はく、「仲由と為す。」と。曰はく、「是れ魯の孔丘の徒か。」と。対へて曰はく、「然り。」と。曰はく、「滔滔たる者、天下皆是れなり。而して誰と以にか之を易へん。且つ而其の人を辟くるの士に従はんよりは、豈に世を辟くるの士に従ふに若かんや。」と。耰して輟めず。
 子路行きて以て告ぐ。夫子憮然として曰はく、「鳥獣は与に群れを同じくすべからず。吾斯の人の徒と与にするに非ずして誰と与にせん。天下道有らば、丘与に易へざるなり。」と。

 

現代語訳

徳による導きと礼儀による統制

先生が言うことには、「法律や命令だけの政治によって民を教え導き、刑罰によって民を統制するならば、民は刑罰さえ免れればよいと考えて(犯した罪を)恥じない。(しかし)道徳によって民を教え導き、礼儀によって民を統制するならば、(民は)恥じる気持ちを持ったうえに正しい道に進むようになる。」と。

長沮・桀溺

 長沮と桀溺が、二人並んで耕していた。孔子がそこに通りかかり、子路に川の渡し場を尋ねさせた。長沮が言うことには、「あの車の手綱を持つ人は誰か。」と。子路が言うことには、「孔丘です。」と。(長沮が)言うことには、「それは魯の孔丘か。」と。(子路が)言うことには、「そうです。」と。(長沮が)言うことには、「そうならば(孔子ならば)川の渡し場を知っているだろう。」と。
 (子路が今度は)桀溺に尋ねた。桀溺が言うことには、「あなたは誰だ。」と。(子路が)言うことには、「仲由です。」と。(桀溺が)言うことには、「(ということは)魯の孔丘の弟子か。」と。(子路が)答えて言うことには、「そうです。」と。(桀溺が)言うことには、「水が流れゆくように、世の中がみな悪い方向へ向かっている(のは止められない)。それなのに(お前の師匠の孔子は一体)誰とともに世の中を変えようというのか(いや、誰とも変えられない)。かつまたお前も、つまらない人を避けて立派な人を選んで仕えようとする人に従うより、俗世を避けて隠棲する人に従う方がよくないだろうか(いや、俗世を避けて隠棲する人に従う方がよい)。」と。(桀溺は)まいた種に土をかけて手を休めることはなかった。
 子路は戻っていって(会話の内容を孔子に)告げた。先生ががっかりして言うことには、「鳥獣とは、群れを共にすることはできない。私はこの世の中の人々と一緒に生きるのでなければ、一体誰と共に生きようか(いや、他の何ものとも生きない)。もし天下に道があるならば、丘(私)は誰かと共に世の中を変革しようとはしないのだ。」と。

 

重要語句と意味

語 句
①なんぢ(あなた)[二人称] ②しク(及ぶ) ③ごとシ(~のようだ)[比況] ④もシ(もし)[仮定] ▼ここでは②の意。①なんぢ(あなた)[二人称] ②しかシテ・しかうシテ(すると・それで)[順接] ③しかモ・しかルニ・しかレドモ(それなのに)[逆接] ④[置き字/順接・逆接] ▼ここでは①の意。①あたフ(与える・授ける) ②くみス(味方する・対処する) ③あづかル(参加する) ④ともニ・ともニス(一緒に・一緒にする) ⑤と(~と~と・~と一緒に)[並列・従属] ⑥よリハ[比較] ⑦や・か・かな(~か・~か・~だなあ)[疑問・反語・詠歎] ▼ここでは⑦の意。①をつと(夫) ②かノ(あの・この) ③そレ(そもそも) ④かな(~だなあ)[詠歎] ▼ここでは②の意。①これ・こレ・ここ(これ・ここ) ②いづクンゾ(どうして)[疑問・反語]③いづクニカ(どこに)[疑問・反語]④[置き字/強意・断定]⑤えん[接尾語/修飾語を作る]▼ここでは④の意。意 味

 


参考文献

 ここからは参考文献を見ていきます。ここでも孔子が「徳」を重要視していることが分かります。「徳」を大事にして国を治めれば自然と人は集まっていく。逆にそうでない場合は、賢い人ほどその地(国)を離れていってしまうだろうと述べています。

■『論語』為政

子曰はく、「政を為すに徳を以てすれば、譬へば北辰の其の所に居て、衆星の之に共ふがごとし。」と。

先生が言うことには、「(為政者が)徳によって政治を行えば、たとえば北極星がその(定まった)場所にいて、多くの星がそれに向かう(=北極星を中心として運行する)ようになるものだ。」と。

■『論語』憲問

子曰はく、「賢者は世を辟く。其の次は地を辟く。其の次は色を辟く。其の次は言を辟く。」と。子曰はく、「作す者七人。」と。

先生が言うことには、「賢者は乱れた世を避け(て山林に隠れ)る。その次のものは、乱れた国を避け(て別の国へ行くようにす)る。その次のものは、君主の顔色から(礼が表れなくなったことを見て取って、その地を)去る。その次のものは、君主の言葉から(自分と意見が合わないことを知ると、その地を)去る。」と。(また、)先生が言うことには、「このようにできた者は(私の知るところでは)七人いる。」と。

テスト予想問題・内容理解問題

【道徳斉礼】

発問 対句となっている部分をあげよ。思

答 「道之以政~無恥。」と「道之以徳~且格。」の部分。

補充 「道之」の「之」が指すものを、本文中から抜き出せ。(訓点不要)思

答 民

脚問 「民免而無恥」とは、どういうことか。思

答 刑を免れさえすればよいと考えて、(罪を)恥じる気持ちが無くなる。

補充 「民免而無恥」の理由として最も適当なものを、次の中から選べ。思

ア 罪を受けないということは、何も悪いことをしていないという証明になるから。

イ 罪に問われないほどに強固な地位を手に入れるためには、恥ずかしい気持ちは邪魔だから。

ウ 罪に問われさえしなければ、あとはどうでもよいという、内面の浅ましさがあるから。

エ 罪を受けるような行為をすると、人格者とどうしても比べて恥ずかしくなってしまうから。

答 ウ

発問 前者と後者の政治手法の違いは何か。思

答 前者が「政(法律や命令)」「刑(刑罰)」で人々を治めようとしているのに対し、後者は「徳(道徳)」「礼(礼儀)」で人々を治めようとしている。

発問 なぜ、「民免而無恥」という状況になってしまうのか。思

答 法律や刑罰で人々を統制しようとしていて、徳や礼の精神を教えていないので、心の中からは変わっておらず、刑を免れさえすればよいと思うようになるから。

補充 「徳」と「礼」によって民衆を教化すれば、民衆はどのようになると孔子は述べているか。二十五字程度で説明せよ。思

答 不道徳な行いを恥じる気持ちを持って、正しい道に進む。(二十六字)

【長沮・桀溺】

補充 「使子路問津焉」の書き下し文として適当なものを次から選べ。思

ア 子路を使ひとして津を問ふ

イ 子路の問ひし津を使ふ

ウ 子路の津を問ふを使はしむ

エ 子路をして津を問はしむ

答 エ

補充 「夫」の読み方と、その訳として適当なものを、次からそれぞれ選べ。思

ア かの  イ ふ  ウ それ  エ かな

オ 一人前の男  カ そもそも  キ ~だなあ

ク あの  ケ 妻のある男

答 読み方 ア  意味 ク

補充 「是也」の内容として適当なものを、次から選べ。思

ア ここが津である。

イ この人が孔丘である。

ウ この人は子路である。

エ これは魯の孔丘に与えるものだ。

答 イ

補充 「是知津矣」の「是」の内容として最も適当なものを、次から選べ。思

ア ここが魯であるならば

イ あの人が孔子であるならば

ウ あの人が魯の国を知っているならば

エ ここから先に旅をしたいのであれば

答 イ

補充 「而誰以易之」について、

①「之」の指す内容を、本文中から二字で抜き出せ。(訓点不要)思

②この発言からわかる態度として最も適切なものを次から選べ。思

ア 志の高さを褒め称えようとする態度。

イ 進む道の厳しさにめげそうな態度。

ウ 為政者の批判しかしない孔子への懐疑的な態度。

エ 孔子の目標に対する否定的な態度。

答 ①天下 ②エ

脚問 「辟人之士」「辟世之士」とは、それぞれ誰を指すか。思

答 「辟人之士」とは、孔子を指し、「辟世之士」とは、二人の隠者を指す

補充 「且而与…之士哉」の意味として最も適当なものを、次から選べ。思

ア つまらない人に付き従うよりも、世を避ける人に付き従うのがよい。

イ 立派な人を選ぼうとする人に従うよりも、俗世を避ける人に従うのがよい。

ウ 世を避ける人に付き従うよりも、つまらない人に従う方がよい。

エ 俗世を避けようとする人に従うより、立派な人を選ぼうとする人に従う方がよい。

答 イ

発問 隠者二人が孔子を批判するのはなぜか。思

答 孔子のしていることは無駄な試みだと考えているから。

脚問 「憮然」とはどのような態度か。知

答 がっかりした態度

発問 なぜ「憮然」としたのか。思

答 自分の生き方が隠者たちに受け入れられないのを知ったから。

補充 「吾非斯人之徒与而誰与」の意味として最も適当なものを、次から選べ。思

ア 私はどんな人とでも仲よくできる。

イ どんな動物も仲間と一緒に暮らせるものだ。

ウ 私は人間と一緒にいるしかない。

エ 私は俗世を避けて生きていこうと思っている。

答 ウ

補充 本文における① 孔子と② 桀溺の考えとして最も適当なものを、次からそれぞれ選べ。思

ア 世の中を変えることは難しいが方法はある。

イ 世の中を変えることなどできない。

ウ 世の中を変える理由はどこにもない。

エ 世の中を変える方法を知ってみたい。

オ 世の中を人々とともに変えたい。

カ 世の中を隠者となって眺めてみたい。

答 ①オ ②イ

1 「道徳斉礼」の本文から、孔子が理想とする政治の特徴をまとめてみよう。思

答 法律や刑罰で民を表面的に導くのではなく、道徳と礼儀によって民を内面から導こうとする政治。徳治主義。

2 長沮と桀溺は、孔子にどのような思いをもっているか。それが読み取れる部分を「長沮・桀溺」の本文から抜き出し、その思いがどのようなものかをまとめてみよう。思

答 二人とも、世の中を変えようと旅を続ける孔子に対して批判的である。

長沮…「是知津矣。」→孔子のような知識人であれば津のありかくらい分かるだろうと皮肉を言っている。

桀溺…「滔滔者、天下皆是也。而誰以易之。且而与其従辟人之士也、豈若従辟世之士。」→天下が乱れてどうしようもない時に、理想の政治を志し、自分の考えに賛同する人物を選ぼうとする孔子の試みを無駄だとする。

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