『竹取物語』かぐや姫「天人の迎へ」の現代語訳と品詞分解〜かぐや姫の最後〜

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古典ノート

 『竹取物語』は、平安時代前期に成立した日本の物語です。「現存する日本最古の物語」とされています。作者は不明で、正確な成立年も未詳になっています。

 日本最古の物語と言われる理由は、かの有名な『源氏物語』に「物語の出で来はじめの祖(おや)なる竹取の翁」と書かれており、現在まで『竹取物語』が日本最古の物語といわれているからです。

 


 この記事では、そんな『竹取物語』の「天人の迎へ」の場面の、わかりやすい現代語訳・口語訳と品詞分解を解説していきます。さらに「かぐや姫の最後」の場面の本文と現代語訳も併せて掲載していきます。

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【本文】

(てん)(にん)(むか)

 かぐや(ひめ)は、(つき)(なが)めてもの(おも)いに(しず)むことが(おお)くなった。(おきな)(おうな)がその()(ゆう)(たず)ねると、()(ぶん)(つき)()(かい)(もの)で、(はち)(がつ)(じゅう)()(にち)(よる)(むか)えが()ると()()ける。(みかど)(ひめ)(まも)るため、(へい)()たちを(おきな)(いえ)(つか)わした。

 かかるほどに、(よひ)うち()ぎて、()(とき)ばかりに、(いへ)のあたり(ひる)()かさにも()ぎて(ひか)りたり。(もち)(づき)()かさを、(とを)()はせたるばかりにて、ある(ひと)()(あな)さへ()ゆるほどなり。(おほ)(ぞら)より、(ひと)(くも)()りて()()て、(つち)より()(しやく)ばかり()がりたるほどに、()(つら)ねたり。これを()て、(うち)()なる(ひと)(こころ)ども、(もの)におそはるるやうにて、あひ(たたか)はむ(こころ)もなかりけり。からうじて(おも)()こして、(ゆみ)()をとりたてむとすれども、()(ちから)もなくなりて、()えかかりたり。(なか)に、(こころ)さかしき(もの)(ねん)じて()むとすれども、ほかざまへ()きければ、()れも(たたか)はで、(ここ)()ただ()れに()れて、まもりあへり。

 ()てる(ひと)どもは、(しやう)(ぞく)のきよらなること、(もの)にも()ず。()(くるま)(ひと)()したり。()(がい)さしたり。その(なか)(わう)とおぼしき(ひと)(いへ)に、「(みやつこ)()()、まうで()。」と()ふに、(たけ)(おも)ひつる(みやつこ)()()も、(もの)()ひたる(ここ)()して、うつぶしに()せり。いはく、「なむぢ、をさなき(ひと)。いささかなる()(どく)を、(おきな)つくりけるによりて、なむぢが(たす)けにとて、(かた)(とき)のほどとてくだししを、そこらの(とし)ごろ、そこらの()(がね)(たま)ひて、()()へたるがごとなりにたり。かぐや(ひめ)は、(つみ)をつくり(たま)へりければ、かくいやしき(おのれ)がもとに、しばしおはしつるなり。(つみ)(かぎ)()てぬれば、かく(むか)ふるを、(おきな)()(なげ)く。あたはぬことなり。はや()だしたてまつれ。」と()ふ。(おきな)(こた)へて(まう)す、「かぐや(ひめ)(やしな)ひたてまつること、()(じふ)()(ねん)になりぬ。『(かた)(とき)』とのたまふに、あやしくなりはべりぬ。また(こと)(どころ)に、かぐや(ひめ)(まう)(ひと)ぞおはすらむ。」と()ふ。「ここにおはするかぐや(ひめ)は、(おも)(やまひ)をし(たま)へば、え()でおはしますまじ。」と(まう)せば、その(かへ)(ごと)はなくて、()(うへ)()(くるま)()せて、「いざ、かぐや(ひめ)、きたなき(ところ)に、いかでか(ひさ)しくおはせむ。」と()ふ。()()めたる(ところ)()、すなはち、ただ()きに()きぬ。(かう)()どもも、(ひと)はなくして()きぬ。(おうな)いだきてゐたるかぐや(ひめ)()()でぬ。えとどむまじければ、たださし(あふ)ぎて()きをり。

 

【現代語訳】

 こうしているうちに、宵が過ぎて、午前零時頃に、家の辺りが昼の明るさにもまして光り輝いた。満月の明るさを、十も合わせているほどであって、そこにいる人の毛の穴までも見えるほどである。大空から、人が、雲に乗って降りてきて、地面から五尺ほど上がっているところに、立ち並んでいる。これを見て、家の内や外にいる人々の心は、超自然的な力を持つものに襲われるようで、戦おうとする気持ちもなくなった。やっとのことで気持ちを奮い立たせて、弓に矢をつがえようとするけれども、手に力がなくなって、物に寄りかかっている。(その)中で、気丈な者が、我慢して射ようとするけれども、(矢が)あらぬ方へ飛んでいったので、荒々しくも戦わずに、気持ちがただひたすらぼんやりして、お互いに見つめあっている。

 (雲の上に)立っている人たちは、衣装の清らかで美しいことは、比類するものもない。(空を)飛ぶ車を一つ伴っている。(また、)絹張りの大きな傘をさしている。その中で王と思われる人が、家に(向かって)、「造麻呂、出て参れ。」と言うと、(今までは)猛々しく思っていた造麻呂も、何かに酔ったような心地がして、うつぶせにひれ伏した。(天人の王が)言うには、「おまえ、心が未熟な人よ。わずかばかりのよい報いが受けられるような行いを、おまえ(=翁)がしたことによって、おまえの助けに(しよう)と思って、ほんのしばらくの間と思って(かぐや姫を)下界に下したのだが、非常に長い年月、(翁に)多くの黄金をお与えになって、(翁は)生まれ変わったように(裕福に)なってしまっている。かぐや姫は、(月の世界で)罪をお作りになったので、こんなに賤しいおまえのもとに、しばらくの間いらっしゃったのだ。罪を償う期間が終わったので、こうして迎えるのに、翁は泣いて嘆く。(かぐや姫を引き留めるのは)できないことだ。早くお出し申せ。」と言う。翁が、答えて申すには、「かぐや姫を養育申し上げることは、二十年以上になりました。(それをあなたが)『ほんのしばらくの間』とおっしゃるので、疑わしくなりました。また別のところに、かぐや姫と申す人がいらっしゃるのでしょう。」と言う。(翁はさらに)「ここにいらっしゃるかぐや姫は、重い病気をしていらっしゃるので、出ていらっしゃることはできないでしょう。」と申すと、その返事はなくて、(天人の王は)建物の上に飛ぶ車を寄せて、「さあ、かぐや姫、けがれたところに、どうして長くいらっしゃってよいものか、いや、よくありません。」と言う。(すると、かぐや姫を)閉じこめている塗籠の戸は、たちどころに、すっかり開いてしまった。(下ろしてあった)格子も(みな)、人はいないのに開いてしまった。嫗が抱いているかぐや姫は、(嫗から離れて)外に出てしまった。止めることができそうもないので、(嫗は)ただ(かぐや姫が連れ去られる様子を)見上げて泣いている。

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【品詞分解】

 

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参考資料:竹取物語最後の場面

 ここからは『竹取物語』の最後の場面です。天へと帰っていく「かぐや姫」から手紙と「不死の薬」をもらった「帝」が悲しみ、「富士山(富士の山・不死の山)」と名づけられた山が煙を出し続ける所で終わっています。

 物語を最初から最後まで読むと、作者による計算された物語構成が分かります。ぜひ最初から読んでみてください。

 


『竹取物語』末尾

 中将、人々ひき具して帰り参りて、かぐや姫をえ戦ひ留めずなりぬること、こまごまと奏す。薬の壺に、御文そへて参らす。ひろげて御覧じて、いといたくあはれがらせ給ひて、物もきこしめさず、御遊びなどもなかりけり。大臣・上達部を召して、「いづれの山か天に近き。」と問はせ給ふに、ある人奏す、「駿河の国にあるなる山なむこの都も近く、天も近く侍る。」と奏す。これを聞かせ給ひて、

  逢ふこともなみだに浮かぶ我が身には死なぬ薬も何にかはせむ

かの奉る不死の薬に、また、壺具して、御使ひにたまはす。勅使には、調(つき)(いは)(がさ)といふ人を召して、駿河の国にあなる山のいただきに持て着くべきよし仰せ給ふ。嶺にてすべきやう、教へさせ給ふ。御文、不死の薬の壺ならべて、火をつけて燃やすべきよし、仰せ給ふ。そのよし承りて、兵士(つはもの)どもあまた具して、山に登りけるよりなむ、その山を「富士の山」とは名づけける。

 その煙、いまだ雲のなかへたち昇るとぞ、言ひ伝へたる。

 

現代語訳

 中将は、人々を引き連れて(内裏へ)帰参して、かぐや姫を戦い留められなかったことについて、詳細に奏上する。(不死の)薬の壺に、(かぐや姫の)お手紙を添えて献上する。(帝は)広げてご覧になって、たいそう悲しまれて、食事もお召し上がりにならず、管弦の遊びなどもなかった。大臣・上達部をお召しになって、「どの山が天に近いか。」とご下問になると、ある人が奏上するには、「駿河の国にあるという山がこの都からも近く、天も近くございます。」と奏上する。これをお聞きになって、

(かぐや姫に)逢うこともないので、(悲しみの)涙に浮かぶような我が身では、死なない薬もどうしようか、いや、どうしようもない。

 

あの献上した不死の薬に、また、壺を添えて、勅使にお与えになる。勅使には、調の石笠という人をお召しになって、駿河の国にあるという山の頂上に持っていくべき旨をおっしゃる。山頂でしなければならないことを、教えなさる。手紙と不死の薬の壺を並べて、火をつけて燃やさねばならないということを仰せになる。その旨を承って、兵士たちをたくさん連れて、山に登ったことから、その山を、「富士の山」と名付けたという。

 その煙は、いまだ雲の中へ立ちのぼると、言い伝えている。

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