万葉集の現代語訳と和歌の文法をわかりやすく解説【和歌の修辞・掛詞・枕詞・序詞・縁語・本歌取り】

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古典ノート

大学入試や高校入試にもちょこちょこ出題されている『万葉集』。その代表的な和歌の原文と現代語訳になります。

和歌は訳すのがとても難しく思われていますが、しっかりと単語の意味と文法と和歌の修辞(文法)を押さえることで、大まかな訳はできます。

あとは、入試であれば本文があるので、本文の前後の流れから推測して和歌の訳を考えます。

さとう
さとう

今回は『万葉集』の中でもかなりの有名どころを解説します。高校や中学の授業の予習にも活用してください。

最後には、「和歌の修辞」(文法)の解説も載せておきます!

この記事でわかること

・『万葉集』の有名和歌の現代語訳と品詞分解
・和歌の修辞(文法)の考え方

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『万葉集』 有名和歌の本文と現代語訳

  • (天皇、蒲生野に遊猟するときに、額田王の作る歌)         額田王
  • あかねさす紫野行き標野行き野守は見ずや君が袖振る

【現代語訳】

  (天智)天皇が、蒲生野でみ狩りをするときに、額田王が作る歌 

                               額田王

あかねさす・・・(あかね色が映える)紫草の生えている標野をあちらに行きこちらに行きなさって――野の番人が見ないでしょうか、あなたが袖を振るのを。                           (巻一)


  • (皇太子の答ふる御歌)                    大海人皇子
  • 紫草のにほへる妹を憎くあらば人妻ゆゑに吾恋ひめやも

【現代語訳】

  皇太子が答えるお歌                  大海人皇子

紫草の・・・紫の色が映えるように美しいあなたがもし憎いのだったら、あなたは人妻なのだから私は恋などするでしょうか、いや、しませんよ。(憎くないので人妻であっても恋をするのです)。          (巻一)


  • (柿本朝臣人麻呂、石見の国より妻に別れて上り来るときの歌)  柿本人麻呂
  • 石見の海 角の浦廻を 浦なしと 人こそ見らめ 潟なしと 人こそ見らめ よしゑやし 浦はなくとも よしゑやし 潟はなくとも 鯨魚取り 海辺をさして 和多豆の 荒磯の上に か青く生ふる 玉藻沖つ藻 朝羽振る 風こそ寄せめ 夕羽振る 波こそ来寄れ 波のむた か寄りかく寄る 玉藻なす 寄り寝し妹を 露霜の 置きてし来れば この道の 八十隈ごとに よろづたび 顧みすれど いや遠に 里は放りぬ いや高に 山も越え来ぬ 夏草の 念ひしなえて 偲ふらむ 妹が門見む 靡けこの山

 【現代語訳】

  柿本朝臣人麻呂が石見の国から妻と別れて(都へ)上って来るときの歌

                             柿本人麻呂

石見の海・・・石見の海の角の浦の入り組んだ海岸を、(よい)浦がないと人は見ていようが、(よい)潟がないと人は見ていようが、ええ、ままよ、(よい)浦がなくても、ええ、ままよ、(よい)潟がなくても、(鯨を捕る)海辺を目指して、(この)和多津の荒磯の上に青々と生える美しい藻や沖の藻は、朝鳥が羽を振るように風が寄せるだろうが、夕方鳥が羽を振るように波が寄せるだろうが、波といっしょにああ寄ったりこう寄ったりする(その)美しい藻のように、寄り添って寝た妻を、(露霜のように角の里に)置いて来たので、この(都に向かう)道の数多くの曲がり角ごとに、何度も何度も振り返って見るけれども、いよいよ遠く(角の)里は離れてしまった。いよいよ高く(高角)山も越えて来てしまった。(夏草のように)思いしおれて(私を)慕っているであろう妻の(家の)門を見たいと思う。なびき伏せよ、この(立ちはだかる)山よ。                        (巻二)


  • (反歌二首)
  • 石見のや高角山の木の際より我が振る袖を妹見つらむか  
  • 小竹の葉はみ山も清にさやげども吾は妹思ふ別れ来ぬれば

【現代語訳】

  反歌二首

石見のや・・・石見の国の高角山の木立の間から私が振る袖を、妻は見てくれているだろうか。                     (巻二)

小竹の葉は・・・笹の葉は山(全体)をざわざわさせて(風に)乱れているが、私は妻をひたすら思っている。別れて来た(ばかりな)ので。

                              (巻二)


  • (山上憶良臣、宴を罷る歌)                   山上憶良
  • 憶良らは今は罷らむ子泣くらむそれその母も吾を待つらむそ

【現代語訳】

  山上憶良臣が宴を退出する歌               山上憶良

憶良らは・・・(私)憶良めは今はもう退出いたしましょう。今ごろは(家で)子供が泣いているでしょう。そして、その子の母も私を待っているでしょうよ。                             (巻三)


  

  • (山部宿昜赤人が作る歌)                    山部赤人
  • み吉野の象山の際の木末にはここだも騒く鳥の声かも

【現代語訳】

山部宿昜赤人が作る歌                  山部赤人

み吉野の・・・吉野の象山の山あいの木々の若い梢には、たくさん鳴きざわめいている鳥の声がすることだよ。               (巻六)


  • (二十三日に、興に依りて作る歌)                大伴家持
  • 春の野に霞たなびきうら悲しこの夕かげに鶯鳴くも

【現代語訳】

  (天平勝宝五年二月)二十三日に、(心に)感興の起こるままに作る歌                               大伴家持

春の野に・・・春の野に霞がたなびいていて、なんとなくもの悲しいことだ。この夕暮れの光の中で鶯が鳴いているよ。           (巻十九)

                              


  •                               (東 歌)
  • 信濃道は今の墾道刈株に足踏ましむな沓履けわが背

【現代語訳】

信濃道は・・・信濃に行く道は、最近切り開いた道です。木の切り株に足を踏み抜いて、馬に怪我をさせるな。(馬に)履き物を履かせなさい、わが夫よ。                            (巻十四)


  •     (防人歌)
  • 父母が頭かきなで幸くあれて言ひしけとばぜ忘れかねつる
  •   右の一首、丈部稲麻呂。

【現代語訳】

父母が・・・父母が(おいらの)頭をなで、無事でいろと言った言葉が忘れられないことだよ。                     (巻二十)

  右の一首は、丈部稲麻呂(の歌である)。


品詞分解

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和歌の修辞(文法)

和歌を理解しようとした時、「古文単語や文法」の知識は当然必要ですが、その他にも「和歌の修辞」と言われる文法力も必要になります。

和歌の修辞は、歌人の細やかな感性や心情をより深くし、独創的な味わいを匠に読み手に伝えるための、知的で効果的な言い回しといえます。

そのような歌人のメッセージをどのような修辞によって表現しているのかを見ていきましょう。

枕詞

ポイント

・特定の語を導く、五音の文字。ふつう訳さない。

あしびきの 鳥の尾のしだり尾の 長々し夜を ひとりかも寝む
(独り寝をするという山鳥の長く垂れ下がった尾のように長い秋の夜を、今夜も一人で寂しく寝ることになるのか。)

「あしびきの」 が 「山・峰」 を導く言葉となる。「あしび(ひ)きの」=山や峰がすそ野を長く引いている様子を表す言葉。そこから枕詞となった。

あかねさす 野行き 標野行き 野守は見ずや 君が袖振る
(紫草を栽培している標野をあちらに行き、こちらに行きして、そんなことをなさって野の番人は見ていないでしょうか。いや、見ていますよ。あなたが袖を振る姿を。)

「あかねさす」 が 「紫」 を導く言葉となる。「あかねさす」=明け方東の空があかね色に映える様子を表す言葉。「あかね」は赤色の染料を採るつる草。紫が赤みを帯びていることから繋がっている。

序詞

ポイント

・ある語を導くための七音以上の言葉。枕詞ほど固定的ではないが、場面理解を促す働きがあるので、訳した方がいい。

比喩的な意味で連なる場合

あしびきの 山鳥の尾のしだり尾の 長々し夜を ひとりかも寝む
(独り寝をするという山鳥の長く垂れ下がった尾のように長い秋の夜を、今夜も一人で寂しく寝ることになるのか。)

訳にもあるように、山鳥の垂れた尾のように長いという意味関係を持つ。

掛詞で連なる場合

風吹けば 沖つ白波 たつた山 夜半にや君が ひとり越ゆらむ
(風が吹くと沖の白波が立つ、その立つと同じ名前の龍田山を、この夜半に今頃あの方は一人で越えているのだろうか。)

「立つ」と「龍(田山)」との掛詞で句を結び付けている。
たつ・・・「立つ」で「風吹けば沖つ白波」から動詞「立つ」を連想させて、そこからさらに「龍(たつ)田山」を掛詞によって導き出す。

同じ音の繰り返しで連なる場合

みかの原 わきて流るる いづみ川 いつ見きとてか 恋しかるらむ
(みかの原を分けて湧き出て流れる泉川ではないが、あの人をいつ見たからこんなに恋しいというのだろうか。)

みかの原を分けて流れる泉川の清らかな流れが、恋人の清らかな面影を思い出させ、「泉(いづみ)」の同音から「いつ見(き)」を反復させる手法。


掛詞

ポイント

・同音であることを利用し、一つの語に二重の意味を持たせ表現内容を豊かにする方法。いわゆるダジャレのイメージ。

立ち別れ いなばの山の 峰に生ふる まつとし聞かば 今帰り来む
(もし今別れて因幡の国へ行っても、その山に生えるのように、私を待つと聞けばすぐにでも帰ってこよう。)

いな・・・「往な」と「因(いな) 幡」(いなば・地名)が掛けられている。
まつ・・・「待つ」と「松」が掛けられている。

花の色は うつりにけりな いたづらに わが身世にふる ながめせし間に
(桜の花のような私の容姿もすっかり時を経てしまった(衰えてしまった)ことだなあ。むなしくも長雨降るのを眺めて物思いにふけっていた間に。)

ふる・・・「降る」と「経る」が掛けられている。
ながめ・・・「長雨」と「眺め」が掛けられている。


縁語

ポイント

本文中のある語と、意味上関係の深い語を用いて、連想させることにより表現を豊かにする方法。

ころも) つつなれにし しあれば るばるきぬる をしぞ思ふ
(唐を着つづけるとなれてくる・身になじんでくる、その「なれ」ではないが、馴れ親しんだが京にいるので、はるばるやってた旅を悲しく思うことだ。)

衣・・・「なれ」「つま」「はるばる」「き」の援護が「衣」。
※「は(ば)」の頭文字で「折句」となっている。

【縁語として用いられている語は「掛詞」にも利用されている場合が多い】
なれ・・・「馴れ」(馴れ親しむ)と「褻(な)れ」(身になじむ)
つま・・・「妻」と「褄」(着物のへり)
はるばる・・・「遥々」と「張る」
き・・・「来」と「着」


本歌取り

ポイント

・昔の人の詠んだ有名な歌の中から、語句や趣向を意識的に取り入れることによって、その古歌(本歌)のもつ詩情を思い出させて、さらにその上に新しい詩的な意味を付け加えること。現代で言う「オマージュ」「2次創作」「ひどくはないパクリ」のこと。

(本歌)苦しくも 降り来る雨か 神の崎 狭野(さの)の渡りに 家もあらなくに
(困ったことに振ってくる雨だよ。三輪の崎の佐野の渡し場には、雨宿りする家もないのに。)
    駒とめて 袖うちはらふ 陰もなし 佐野のわたりの 雪の夕暮れ

(馬を止めて袖に降り積もった雪を払う物陰もないことだ。この佐野の渡し場の雪の降りしきる夕暮れは。)

本歌の「旅の困難」を読んだ趣向に対して、雨を雪に変え、雪一色の夕暮れの情景を読むことによって、本歌の詩情を思いださっせた上に幻想的で絵画的な情景美を描いた。

句切れ

ポイント

・和歌の結句(五句目)以外の句に、文法上・内容上の切れ目があるということ。

憶良らは 今は罷(まか)らむ 子泣くらむ それそれの母も 我を待つらむそ 
(私山上憶良めは、今はもう退出しよう。家では今頃、子供が泣いているだろう。はら、その子の母も私を待っているだろうよ。)

初句(一句)・・・憶良らは
二句・・・今は罷らむ(。)二区切れ
三句・・・子泣くらむ(。)三句切れ
四句・・・それそれm母も
五句・・・我を待つらむそ

句切れになる目安は、「係り結びの結び」「終止形・命令形」「終助詞」「倒置法を伴う体言止め」の部分です。

和歌を詠んでみたときに、どこかにこれがあれば、句切れになります。初句切れ・二句切れ・三句切れ・四句切れ、となります。

おやぶんの古文攻略塾 様より

体言止め

ポイント

・歌の終わり(結句)を体現で結ぶことによって、詠嘆の気持ちを表したり、良いんや余情を感じさせたりする技巧のこと。

心なき 身にもあはれは 知られけり 鴫(しぎ)たつ沢の 秋の夕暮れ
(情趣を解さない出家したこの身にも、しみじみとした情趣は自然と感じられるのだなぁ。鴫が飛び立っていく沢の秋の夕暮れよ。)

その他(見立て・歌枕・隠題・折句・物名)

見立みたて

ポイント

・ ある事柄を別の事柄に例える比喩的表現。人間に例えている場合、擬人法になる。

白露に 風のふきしく 秋の野は つらぬきとめぬ ぞちりける

 草の葉についた「白露」を「(真珠の)玉」に見立てた表現。

歌枕うたまくら

ポイント

・和歌にしばしば詠まれる景勝地のこと。

  • その場所について何らかのイメージが定着しており、特定の連想を呼び起こすはたらきがある
  • 本来は歌を詠むのに用いる言葉(歌語)のことをいった

淡路島 かよふ千鳥の なく声に 幾夜寝覚めぬ 須磨の関守

 「須磨」といえば、『源氏物語』で光源氏が都を退き侘び住まいをしていた場所。寂しい・哀れなイメージが定着していた。

隠題かくしだい

折句おりく
ポイント

・ 各句の頭に仮名5文字の言葉を織り込んで歌を作ること。

ら衣 つつなれにし ましあれば るばるきぬる びをしぞ思ふ

 頭の5文字で「かきつばた」(花の名前)を詠み込んでいる。

物名もののな
ポイント

・物事の名前を一見分からないように取り入れて詠み込むこと。

山高み つねのあらしの 吹くさとは にほひもあへず 花ぞ散りける

 「嵐の吹く里」という言葉の中に「しのふくさ(忍ぶ草)」を隠している。

まとめ

いかがでしたか?

万葉集の代表的な歌と和歌の修辞を見てきました。ともに近年の「高校入試や大学入試」で頻出となります。

とくに和歌は「世界で一番短い手紙」と言われているように、少ない文字数で様々な思いを伝えてくれています。古文単語の意味だけでは読み取りができない部分もあります。

和歌の修辞の知識を活用して「意味を補いながら」詠んでいくしかありません。

この記事に書いてあることを活かして、ご自身の勉強へとつなが手頂ければ幸いです。

最後まで読んでいただきありがとうございました。

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