『源氏物語』住吉参詣【本文と分かりやすい現代語訳・品詞分解】解釈付き

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古典ノート

作り物語と歌物語が統合された古典文学の最高傑作が『源氏物語』です。現代の小説やマンガにいたるまで、多くの作品に源氏物語は影響を与えています。

※作り物語・・・空想的・伝奇的な虚構の物語。代表作:『竹取物語』(源氏物語が「物語ができた初めの祖」と評価しています。)

さとう
さとう

『源氏物語』は今も多くの大学入試に出題されています。受験対策を考えても学んでおいた方がいい作品の一つです。
さらに『源氏物語』には、古文読解で必要とされる単語・文法・和歌・古典常識などが全て含まれています。古文の総復習や受験基礎知識の確認としても役立ちます。


今回はそんな『源氏物語』の住吉参詣の場面の本文と現代語訳・品詞分解を解説していきます。最後には解釈とまとめもしますので、ぜひ参考にしてみてください。

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『源氏物語』「住吉参詣」 紫式部

光源氏が多くの願いを叶えられたため、そのお礼として住吉大社へ参詣しに行く場面です。そこには意外な人物(明石の君)も来ていました。
直接会うことはありませんでしたが、その後の二人のやり取りがお互いを気遣うように印象的に描かれています。

※和歌に部分は黄色で囲ってあります。

「住吉参詣」の原文

その秋、住吉に詣で給ふ。願ども果たし給ふべければ、いかめしき御歩きにて、世の中揺すりて、上達部、殿上人、我も我もとつかうまつり給ふ。

 折しも、かの明石の人、年ごとの例のことにて詣づるを、去年今年はさはることありておこたりける、かしこまり取り重ねて思ひ立ちけり。舟にて詣でたり。岸にさし着くるほど、見れば、ののしりて詣で給ふ人のけはひ、渚に満ちて、いつくしき神宝を持て続けたり。楽人十列など、装束を整へ、かたちを選びたり。「誰が詣で給へるぞ。」と問ふめれば、「内大臣殿の御願果たしに詣で給ふを、知らぬ人もありけり。」とて、はかなきほどの下衆だに、心地よげにうち笑ふ。「げに、あさましう、月日もこそあれ、なかなかこの御ありさまをはるかに見るも、身のほどくちをしうおぼゆ。さすがにかけ離れ奉らぬ宿世ながら、かくくちをしききはの者だに、もの思ひなげにて、つかうまつるを色ふしに思ひたるに、何の罪深き身にて、心にかけておぼつかなう思ひ聞こえつつ、かかりける御響きをも知らで立ち出でつらむ。」など、思ひ続くるに、いと悲しうて、人知れずしほたれけり。

 国の守参りて、御まうけ、例の大臣などの参り給ふよりは、ことに世になくつかうまつりけむかし。いとはしたなければ、「立ちまじり、数ならぬ身のいささかのことせむに、神も見入れ数まへ給ふべきにもあらず。帰らむにも中空なり。今日は難波に舟さしとめて、祓へをだにせむ。」とて、漕ぎ渡りぬ。

 君はゆめにも知り給はず、夜一夜いろいろのことをせさせ給ふ。まことに神の喜び給ふべきことをし尽くして、来し方の御願にもうち添へ、ありがたきまで遊びののしり明かし給ふ。惟光やうの人は、心のうちに神の御徳をあはれにめでたしと思ふ。あからさまに立ち出で給へるに候ひて、聞こえ出でたり。

  住吉のまつこそものは悲しけれ神代のことをかけて思へば

げにとおぼし出でて、

  「荒かりし波の迷ひに住吉の神をばかけて忘れやはするしるしありな。」とのたまふも、いとめでたし。

 かの明石の舟、この響きにおされて過ぎぬることも聞こゆれば、知らざりけるよとあはれにおぼす。神の御しるべをおぼし出づるもおろかならねば、「いささかなる消息をだにして心慰めばや。なかなかに思ふらむかし。」とおぼす。御社立ち給ひて、所々に逍遥を尽くし給ふ。難波の御祓へなど、ことによそほしうつかまつる。堀江のわたりを御覧じて、「今はた同じ難波なる。」と、御心にもあらでうち誦じ給へるを、御車のもと近き惟光承りやしつらむ、さる召しもやと、例にならひて懐にまうけたる柄短き筆など、御車とどむる所にて奉れり。をかしとおぼして、畳紙に、

みをつくし恋ふるしるしにここまでもめぐりあひけるえには深しな

とて給へれば、かしこの心知れる下人してやりけり。駒並めてうち過ぎ給ふにも心のみ動くに、つゆばかりなれど、いとあはれにかたじけなくおぼえて、うち泣きぬ。

  数ならでなにはのこともかひなきになどみをつくし思ひそめけむ

「住吉参詣」の現代語訳

その秋、(源氏は)住吉大社にご参詣なさる。多くの願がかなったお礼をなさるつもりなので、威風堂々たるお出かけであって、世間は大騒ぎして、上達部や殿上人たちが、我も我もとお供し申し上げなさる。

 ちょうどその折、あの明石の人が、毎年の恒例の行事として(住吉に)詣でるのだが、去年と今年は差し障ることがあって怠った、そのお詫びを兼ねて(参詣を)思い立ったのだった。舟で参詣した。岸に舟を着けるとき、見ると、大騒ぎして参詣なさる人の気配が、渚に満ちて、立派な奉納の品々を持った行列が続いている。(社頭でを舞う)舞人十人などは、装束を整え、容貌のすぐれた者を選んでいる。「どなたがご参詣になっているのか。」と(供の者が)尋ねた様子だが、(その返事には)「内大臣殿がご願ほどきに参詣なさるのを、知らない人もいるとはなあ。」と言って、つまらない身分の下賤の者までが、得意そうに笑う。「本当に、あきれたことに、(参詣する)月日はほかにいくらもあるのに、なまじこの(源氏の君の)ご威勢を遠くから見るにつけても、わが身のほどが情けなく思われるわ。さすがに(源氏の君とは、姫君をもうけたという)切れ申し上げることはない前世からの定めがあるものの、こんなに取るに足りない分際の者までが、何の屈託もなさそうで、お供するのを晴れがましい名誉なことに思っているのに、(自分は)どんな罪深い身だからといって、(源氏の君のことを)いつも心にかけてご心配申し上げていながらも、どうしてこのような世間の大評判をも知らないで出かけて来てしまったのだろう。」などと、思い続けると、ひどく悲しくて、人知れず涙にくれるのであった。

 国の守が参上して、ご接待の宴を、普通の大臣などがご参詣なさるときよりは、格別に比類なく(盛大に)開いてさしあげたことだろうよ。(明石の君は)全くいたたまれない思いなので、「(このようなにぎやかなご参詣に)立ちまじって、取るに足りない身の自分が少しばかりのことをしたとしても、神も目をかけて人並みにお扱いくださるはずもない。(と言って今さら)帰るようなのも中途半端だわ。今日は難波に舟をとめて、せめて祓えをだけでもしよう。」と言って、(難波に)漕いで行った。

 源氏の君は(明石の君が来合わせていたことなど)少しもご存じなく、一晩中さまざまな神事をおさせになる。本当に神がお喜びになりそうなことをし尽くして、かつて須磨で立てた大願の願ほどきに加えて、めったにないほど歌舞や管弦の遊びを盛大に行って夜をお明かしになる。惟光のような(源氏の君と辛苦をともにしてきた)人は、心中に神のご加護を身にしみてありがたいと思っている。(源氏が)ちょっと立ち出て来られたときに(惟光は)おそばに侍して、およみ申し上げた。

  住吉の・・・住吉の松を見ていましても、まずもの悲しくなります。神代の昔ならぬ須磨・明石への流離のころのことを心にかけて思い出すものですから。

(源氏は)まことにと思い出しなさって、

荒かりし・・・荒々しかった波に迷わされたあのころを思い出すにつけても、住吉の神のことを忘れたりするであろうか、決して忘れたりはしないよ。霊験あらたかだよね。」とおっしゃるのも、まことにすばらしい。

 あの明石の君の舟が、この騒ぎに圧倒されて去って行ったことも(惟光が)お耳に入れると、(源氏は)知らなかったよとしみじみ不憫にお思いになる。これも神のお導きとお思い出しになるにつけても(明石の君のことが)おろそかには思われないので、「せめて一言便りだけでも送って(明石の君の)心を慰めたいものだ。(住吉に来合わせながら会えないで帰ったのなら、)かえってつらく思っているだろうよ。」とお思いになる。住吉のみ社をご出立なさって、あちらこちらであらゆる遊覧をお楽しみになる。難波の祓えなどは、とりわけいかめしく立派におつとめ申し上げる。堀江のあたりを御覧になって、「今はた同じ難波なる。」と、何気なく口ずさみなさるのを、お車のおそば近くにいた惟光が了解したのだろうか、そのようなご用命もあろうかと、いつもどおり懐に準備していた柄の短い筆などを、お車を停めた所で差し上げた。(源氏は、気のきいたことと)感心なさって、畳紙に、

みをつくし・・・身を尽くして恋しく思う甲斐があって、この澪標の立つ難波の浦までやって来てめぐりあった、あなたとの縁はまことに深いのですね。

と書いて(惟光に)お与えになったので、(惟光は)明石方の事情に通じている下仕えの者に命じて届けた。(明石の君は、源氏の君の一行が)馬を並べて通り過ぎなさるときにも心が揺れるばかりだったので、(歌一首という)ほんのわずかのお便りだけれども、とてもしみじみと感動してありがたく思われて、泣いてしまうのだった。

数ならで・・・取るに足りない身のほどで、何の生きる甲斐もないわが 身なのに、どうして身を尽くしてあなたのことを思い始めてしまったのでしょうか。                       (澪標)

 

「住吉参詣」の品詞分解

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解釈・まとめ

明石の君と光源氏の関係

光源氏が住吉大社へ参詣に行ったときに、時を同じくして明石の君も同じく参詣していました。ここで明石の君について簡単に解釈しておきます。

明石の君は、明石の入道の娘です。明石は月の名所としても有名です。夢でお告げを見た明石の入道が光源氏を迎えにいきます。明石の入道の案内により、光源氏は明石後に腰を据えることを決意します。
そこには明石の入道が、自分の娘(明石の君)を光源氏にもらってほしいという意図もあったでしょう。

初めは都に残してきた紫の上を思い、明石の入道の申し出を断っていましたが、ついには明石の君の所へ行くこととなります。

そこで約2年半過ごし、明石の君は光源氏との子どもを身ごもります。しかし、天皇からの勅使があり、都へと帰らなければならなくなりました。
身ごもった明石の君を置いて光源氏は都へと戻ります。

葵の上がいる都へ戻れて、権力戦争の中で戦う覚悟を決めていた光源氏には、内心、都へ戻りたい気持ちもあったでしょうが、それでも明石の君を置いていくことに心残りはありました。

明石の君の方も、天皇の勅使なので断れるわけもなく、また、それほど身分の高くない家柄なのでどうすることもできませんでした。

さとう
さとう

そのような二人の背景を知ったうえで、今回の「住吉参詣」を読むと、一層お互いの気持ちが読み取れますね。


光源氏がいることを知っても、会にはいかず、話しかけもせず、そっと立ち去ろうとする明石の君。
明石の君がいたことを知った光源氏が、その心を思いやって和歌を送る
光源氏の一行が通り過ぎるだけでも心を揺さぶられてしまったのに、自分を思ってわざわざ和歌を送ってくれた光源氏に、とても感動している明石の君

さとう
さとう

それほど長い話ではありませんが、お互いがお互いに気を使っている・思いやっていることが読み取れる場面でしたね。

離れたからと言って決してないがしろにしない光源氏と、そんな光源氏をいつまでも思っている明石の君が印象的です。


いかがでしたでしょうか?物語を読むときは、登場人物の置かれてる状況や背景が分かると一層読みやすく、理解しやすくなります。

特に源氏物語は長編物語なので、多くの人物が登場します。その一人一人に注目することで、さらに面白くなっていくでしょう。皆様の参考になりましたら幸いです。

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